2011年8月23日火曜日

電話

バリバリバリ…
携帯電話が鳴り響く午前11時。
画面には0792の市外局番の見慣れない番号通知。

「はいまつおかです」

溌剌と電話に出てみました。

「●●の電話でしょうか」

恭しく発せられた声はお歳を召された女性であります。

「いえ、まつおかです」

もう一度はっきりとこちらの名前を告げるとその女性は

「あー申し訳ございません。間違い電話をしたのでしょうか」

とても丁寧に謝られてしまいまして。

「何番におかけですか」


基本的に間違い電話して来られますと私、結構無愛想になるのでありますが、

今回はいたって優しい体操のお兄さんでございます。

「ゼロ、キュウ、ゼロ…」

番号を一つずつゆっくり正確に伝えられまして。

「あー、最後の数字が違いましたね」

「あらー、そうでございましたか。ほんっとうに申し訳ございません…」
きっと受話器の向こうで深々と頭を下げているのでございましょう。
ございませんのざいあたりから声がかすれて聞き取り辛くなっていまして。

「では、失礼いたします」

最後の最後まで丁寧すぎる受け答えでございました。

きっと、田舎の結構厳格な家庭の奥様でいらっしゃるのでしょう。

都会に働きに出た、歳の頃なら30歳手前の一人息子。
都会の暮らしは大丈夫だろうか、幾つになっても親は親。
心配は募るばかりのお母様。
仕事先でいい人でも見つけたのだろうか、それならいいんだけど。
最近、忙しいらしく今年のお盆も帰って来なかったし。
そろそろ身を固めて欲しくて見合いの話など沢山用意していたのに…。


お父さんは「そんなもん放っとけばいい!あいつも子供じゃないんだから!」
突き放すように言うもんだから、
こそこそとお父さんがいないお昼前を見図ってかけた電話。

「これ、オレの連絡先やから…」乱暴に放られた名刺の裏に
殴り書きされた携帯電話の番号。

何度も見返してゆっくりボタンを押したはずだったのに、
最後の数字がその瞬間判読できなくなってしまったお母様。


想像は膨らむのでございます。


きっと今頃、名刺の裏に殴り書きされた番号を一つ一つしっかり押し込み、
最後の数字を再度確認して人差し指が真っすぐ番号を射抜いているところでございましょう。


お盆も終わり、熱帯夜から解放された日本列島は少しだけ秋の香りを漂わせております。




因に、0792の市外局番は
兵庫県 姫路市、太子町、香寺町、高砂市(一部)だそうです。




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