2011年3月1日火曜日

結構急ぎの仕事でバタバタ働いていたんですが、
やっと初校を出してホッとした黄昏時。


前々から石けんとトイレクイックルが切れたまま、
誤摩化して過ごしてきましたがいよいよ顔も洗えなくなったので
量販店へお買い物であります。


レジは3つあり、2つはお客さん二人づつ待ちの行列ができているが
奥のレジは誰も並んでいません。
ためらわず奥のレジカウンターへ商品を置くのであります。


「いらっしゃいませ」
弱々しい少し高めの声が心なしか震えて聞こえてまいります。


私は何気にレジの人に顔を向けたのでありました。
そこには、軽めのアイシャドウと淡いチークに真っ赤なルージュがひかれた、
40手前の男性がおられまして。


そう、男性であります。


一瞬たじろいだ私の態度に小さい声がさらに小さくなったように感じまして。
それでも「えいや!」と一つ頭を振って口角を無理矢理上げて、
笑顔を作り、精一杯大きな声を出すのであります。


「牛乳石けん一箱、トイレクイックル1パック」
一生懸命頑張ったのでございましょう、
ここまで言って一息つかれるのでございます。


「…以上でよろしゅうございますでしょうか」
自分としては思いのほか大きな声を出されたと恥ずかしがられたのでしょう。
また、小さい声で今度は確実に声が震えておられました。


財布から千円札を抜き取り渡しますと、
恭しく預かられ、丁寧におつりをいただきました。


「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
レジカウンターの角に三つ指を本当について、
深々とお辞儀をされるのであります。


「ありがとう」私も思わずお礼を言っていました。


私、こういう人に感動するのでございます。
なんてカッコイイ人なんだろうと、
どれほど強い人なんだろうと尊敬するのでございます。


いわゆるカミングアウトでありますよ。
今でこそオネエ芸人やらタレントさんが大挙目にする機会が増えたもので、
それほど違和感は無いのだけれど。
テレビの世界や夜の街でない、生活用品を販売している量販店であります。
好気な目と、嫌悪の言葉が容赦なく浴びせられる生活空間で
カミングアウトするのは大変なことだと思うわけですよ。


きっと色んなことを言われたんだと思うわけですよ。
後悔も山ほどしたんだと思うわけですよ。


でも彼は、いや彼女は決意するわけですよ。
しっかり引かれたルージュが
彼女の背中を押したりなんかするんですよ。


レジに一人立つ彼女は心細げな立ち居振る舞いとは反対に、
凛とした美しさが漂うわけですよ。




がんばれ。
いやがんばってらっしゃる。
私なんかよりずっとがんばってらっしゃる。


でも負けないでほしい。
私を含め、世間なんていつ何時、
好意から悪意に変わるかわかったもんじゃないのであります。


きっと、そんな日が来る可能性は私たちよりずっと高いんだと思います。
そんなとき負けないでほしい。
そんなときも今日のように凛としていてほしい。


彼女は深く下げた頭をゆっくり戻し、
私の後ろに並んでいたお客さんに相対したのであります。
心なしか、先ほどより緊張がほぐれたように、
少し自然な笑顔と高めな声が落ち着いたように感じたのであります。




一雨ごとに季節は変わってまいりました。
もう春でございます。

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