2012年10月17日水曜日

オッチャン

夕暮れの天神橋筋。
ちょうど南森町の交差点に差し掛かった頃。

信号待ちをしているワタシの右隣にキュキー!

ブレーキ一発大きな自転車が停車いたしました。

何気にその方向に目を向けまして。

一瞬にして懐かしさが込み上げてまいりました。

イヤイヤ、どちらかと言うと若い女子高生が
ジャニーズの嵐のメンバーを見つめるような
憧れと申しましょうか。


そう、その人は業務用の自転車いっぱいに
透明のビニール袋に何か知らないものをたっぷり詰め込み、
どこかへいつも急いで運んでいるのであります。


その透明ビニール袋の後ろには
沢山の紙切れを貼られておりまして。

これがサイボーグ009のマントほどに靡いて
天神橋筋を駆け抜けて行く姿は圧巻であります。


そして、その紙切れ。そう、そこに書かれている言葉。

俳句なのか、短歌なのか、なんなのか。


ワタシがその昔南森町に住んでいた頃、
この人をよく見かけておりました。

その度、ワタシはこの人に興味を持ち追いかけて
写真を撮りたいと予々思っておりました。

しかしその度、この人はいつも急いでおり、
全く追いつけなかったのでありました。


その人が今、ワタシの隣にいる。

「オ、オッチャン!」
ワタシ、緊張に声かすかに震えるも呼びかけるのであります。


異様な雰囲気におずおず振り返るオッチャン。

「あの、写真撮ってもいいですか〜?」

え!オッチャン少々たじろがれながら。

「この紙か?」

多分、今までもそういう申し出があったのでございましょう。
すぐにこの紙のことと想像されたのでありました。


「イヤ、全部!全部!オッチャンも!」


ワタシ、もうファン心理でございます。

何もかも欲しいのであります。

少したじろぐもそのオッチャン。

「エエよ、でも次んとこ行かなアカンから。普通に走るで」

「はい!ついてまいります!」

被り気味に言い放つワタシの目の前で
信号が青に変わったのであります。


上体を半分沈め、ダニ・ペドロサよろしく瞬時にロケットスタート。

iPhoneのカメラにセットする前に飛び出したオッチャンに。

「オ〜!」奇声を発しながらワタシもスタートするのであります。


スタートダッシュするオッチャン
追いつけない
紙がたなびいております

















そう、その紙に書かれている文言をワタシは追いかけるのでございます。




「デマカセ女 ひと七十は 学ばず言ひ」
「いかなるや 人も勉強 するは大事」←田中角栄は勉強しなさいよと
「ばら秋や 明日香のたな田に 彼岸花」
「ロダンの 考える人を 思うなら」
「老センター まど風すずし あき彼岸」
「彼岸おわり 手合す秋夜の ミナミ御堂」
「老いて智の 若き時にまされる事 若くして 貌の老いたるに まされる如し」
 ↑年を重ねると知恵は若い時より優れ、それは若い人の容貌が老人よりまさっているのと同じだ。
「日本の 青少年を 育てるや スポーツ野球 豊中から」
「近くたち たかさ日本一 ハルカス知る」←大阪阿倍野区あべのハルカス、ビルの高さ日本一到達。

もうですね、素晴らしいわけですよ。
沢山の紙切れに書かれたメッセージ。

やっと追いついたワタシに、オッチャンは清々しく仰られるわけです。
「どや、撮れたか?」
「ええ、もう。あ、オッチャンの顔を…」
「そうかほんなら良かった。じゃぁな」
「あー、オッチャン…」
バシャ!!



オッチャンは颯爽と右手を上げ去って行ったのであります。
まるで「アディオス」と言わんばかりに。
結局、今回もオッチャンの顔を写すことが出来ませんでした。
多分また出会う楽しみを残してくれたのでありましょうか。
今度じっくり、紙切れの短歌について語り合いたいと思うワタシであります。

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